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増える社会起業を投資で育てる

東北の活動家と支援団体を結ぶイベント開催や資金提供を行ってきた一般財団法人KIBOWが、社会が抱える課題をビジネスの手法を用いて解決する事業に投資する5億円規模のファンドを設立した。投資対象には、経済的リターンに加えて「社会的リターン」も求める。このような投資は「社会的インパクト投資」と呼ばれ、日本ではまだ馴染みのないものだが、2013年には英国主導で「G8社会インパクト投資タスクフォース」が発足するなど、欧米の先進国を中心に新たな投資手法として注目を集めている。

震災以降、東北を中心に拡がりを見せた「社会起業(ソーシャルビジネス)」に続く、「社会投資」の萌芽。その特徴と背景にある社会的な変化の兆しについて、ファンド運営責任者である山中礼二さん(KIBOWインパクト・インベストメント・チーム ディレクター)に話を聞いた。

わずか4か月で誕生した新ファンド1号

新ファンド設立の動きは、世界的な社会インパクト投資の拡大の旗振り役になっているロナルド・コーエン卿が2015年5月に来日し、KIBOWの代表理事を務める堀義人氏と面会したことに始まる。堀氏がかつてベンチャーキャピタル(VC)を立ち上げた際のビジネス・パートナーであったコーエン卿は、「VCの経験活かし、日本で社会的インパクト投資を活性化させて欲しい」と促した。

愛さんさん宅食

石巻市、東松島市、塩釜市、多賀城市、七ヶ浜町、利府町でお弁当宅配を行う愛さんさん宅食

当時、4年余りにわたる被災地支援の活動を次のステップに進めようとしていたKIBOWにとって、コーエン卿の申し出は渡りに船だった。堀氏はその場で快諾し、わずか4か月後の9月末には、社会投資ファンド1号の設立を発表。1件目の投資案件として、宮城県塩釜市を拠点に高齢者向けの宅配食事サービスを提供する「愛さんさん宅食株式会社」に対し1000万円の出資を行うことを明らかにした。

山中さんによれば、この投資でカギとなるのは、「どれだけ社会的なインパクトを生み出し、それを定量的に示せるか」ということだ。VCが行う従来型の投資で期待されるIRR(内部収益率)は40~60%という。社会的インパクト投資ではそれに比べ、低くなるが、代わりに「世の中のこれだけの人が幸福になっている」という数字を明確に示すことが必要となる。そのため、「KPIと呼ばれる指標の設定(何を持って目標の達成度合いを測るか)とレポーティングが非常に重要」と山中さんは話す。

東北で育まれた「社会的インパクト投資」の土壌

新ファンドが非常に早いスピードで設立に至った背景には、東北の復興活動を通じて、「いい起業家が沢山でてきたな」という認識が関係者間で共有されていたことがあった。

社会的な課題を解決したいという高い志を持ち、かつ経営者としても優秀な「稼げる社会起業家」が被災地を中心に育ってきている中で、彼らを対象とする新しい投資手法、すなわち、金銭的リターンのみを求める「冷たいお金」ではなく、広く社会的な価値を生み出す「温かいお金」を流すことが可能なのではないか、との思いに至ったのだという。

また、そうした「温かいお金」を提供したい、と考える個人投資家や企業も国内に増えてきていると感じる、と山中さんは話す。具体的には、日本電気株式会社(NEC)が宮城県山元町でICTを活用したイチゴ栽培を行う農業生産法人GRAの子会社、株式会社GRAアグリプラットフォームに投資した例があるほか、日本の富裕層が海外の財団などに多額のお金を寄付している現状もある。「日本では、社会のために自分のお金を役立てたいと思っても、その受け皿がなかった。だがここ数年間で、戦略的に社会投資をしようという流れが国内でもじわじわと出てきている」。

社会投資に興味を持つ企業が現れたことにより、VCが取得した株式のエグジット(売却先)の可能性も感じられた。こうして、「社会起業家」「投資家」「エグジット」の3要件が揃いつつあることが、ファンド設立の大きな後押しとなった。

社会起業家に求められること

一般財団法人KIBOWの山中礼二さん

一般財団法人KIBOWの山中礼二さん

KIBOWは、今後、地方創生、少子高齢化、貧困問題、環境保護、海外協力などの分野で課題解決に挑む株式会社を対象に、1件あたり1000万~5000万円の規模の投資を、年に3件程度のペースで行う計画だ。投資対象は東北の企業に限定しないが、山中さんが被災地の社会起業家たちに寄せる期待は大きい。「痛切な思いを持って東北に賭けている人たちが沢山いる。彼らには思いの強さと、多くの人を巻き込む力がある」。

一方で、投資する側の観点から、「規模化に対する欲求が足りない起業家が多い」と注文もつける。「小規模でやっていくことは必ずしも悪いことではないが、良いことをやっているのであれば、もっと規模を大きくしてもいい。他の組織を巻き込んだり、実績を積んだ上で政治を動かしたり、社会の新しい仕組みやルールをつくる形で社会的インパクトを最大化する方法もある」。

社会インパクト投資の投資先に求められる成果

社会インパクト投資の投資先に求められる成果

さらに求められるのが、「マネージメントチームの増強」だ。「ベンチャー企業を見ていると、経営陣の人数やスキル不足がネックとなって、事業が一定以上に拡がらないことがよくある。社会起業家についても、優秀な経営チームや右腕がいれば、もっと事業を拡大できる。起業家自らがそうした人材を獲得しにいくという姿勢が必要」と山中さんは指摘する。

自らはハーバード・ビジネス・スクールへの留学時代に非営利の老人ホームでインターンをしたことがきっかけで「人の幸せってなんだろう、と深く考えるようになった」という山中さん。帰国してヘルスケア関連ベンチャー企業に携わっていた時に、東北の事業者支援に関わる仕事のオファーがあった。さらに今回、社会インパクト投資のディレクターを任せたいという話が来た時は、「自分の過去の経験は全てこのためだったのか」という思いだったという。

「経済的なこと以外に生きる意味を見出す人が起業家にも投資家にも増えている。ビジネスを通じた社会変革の波が、まさに今、東北から日本に拡がってきている気がする」。ファンドは立ち上がったばかりだが、その運営を担うキーパーソンは、既に確かな手応えを感じているようだ。

文/石川忍                        

提供元:東北復興新聞 (http://www.rise-tohoku.jp/?p=11628)


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