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人口3万6千のまちのワールドカップ その「成功」とは?

2015年3月2日夜、釜石市に大歓声が響き渡った。2019年9月から11月に開催される「ラグビーワールドカップ2019」日本大会の国内12開催地の一つとして、岩手県と共同で立候補していた釜石市が選ばれたのだ。そして、2015年9月にイギリスで開催された「ラグビーワールドカップ2015」での日本代表の大躍進。国内外から大きな注目を集めるであろう2019年の大会は、釜石の活性化の起爆剤となることが期待される。
1978年度から1984年度にかけて日本選手権で7連覇した新日鉄釜石ラグビー部の本拠地、釜石。震災直後は、新日鉄釜石を引き継いだクラブチーム「釜石シーウェイブス」の選手が物資運搬などのボランティアを行ったり、世界のラグビー関係者・ファンが釜石の状況に関心を寄せるなど、ラグビーの力が復興の一助になった。
「ラグビーのまち」として全国に名前が知られる釜石は、オリンピック、サッカーワールドカップに次ぐ規模の世界的スポーツ大会をどのように迎えようとしているのだろうか。

「2019年までに」という復興の目標に

釜石鵜住居復興スタジアムの完成予想図(釜石市ラグビーワールドカップ推進室提供)

釜石鵜住居復興スタジアムの完成予想図(釜石市ラグビーワールドカップ推進室提供)

釜石市がワールドカップ誘致に立候補することを決めたのは、2014年10月。市民の生活再建が優先される中、難しい意思決定だった。釜石市ラグビーワールドカップ推進室の増田久士さんは「釜石は他自治体と比べても比較的復興計画が進んでいたからこそ、立候補が可能だった。ラグビーに関わる人だけでなく、まちの人、市役所の人などいろんな人が頑張ってくれたからこそ」と振り返る。
開催都市決定に当たっては、運営能力などとともに開催自治体の熱意が重視されていた。ラグビー文化の根付いた釜石の様子に触れ、そしてスタジアム建設予定地で富来旗(大漁旗)を振っての歓迎を受けたラグビーワールドカップリミテッドの視察団は、「釜石なら必ずいい大会にしてくれる。世界から集まる選手、観客を温かく迎えてくれる」と感激した。

とはいえ、2019年までにクリアするべき課題も山積している。会場となる「釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム(仮称)」は、2016年度から建設工事が始まる予定だが、現時点でスタジアムが存在していないのは12都市のうち釜石だけ。寄付金や政府からの交付金で整備費用の約30億円の大方を賄う目途がようやく立った。今後、「釜石市ラグビーこども未来基金」への寄付集めを継続しながら、急ピッチでのスタジアム整備が求められる。
また、試合当日に開始時間に合わせて会場を訪れる観客、ボランティアら約2万人の交通手段も確保しなければならない。三陸鉄道に移管されて再開予定の山田線鵜住居駅が最寄り駅となるが、山田線の輸送力だけでは限界がある。海上からの輸送や、時差来場を促すことも含めて検討中だ。

スタジアムの建設が予定されている鵜住居地区(2015年12月撮影)

スタジアムの建設が予定されている鵜住居地区(2015年12月撮影)

何より、市内にはまだ生活再建が達成できていない人も大勢いる。しかも、スタジアムが建設される鵜住居は市内でも津波被害の大きかった場所の一つだ。
それでも増田さんは「2019年から逆算して『道路を作らなきゃ』『住宅を再建しなきゃ』といまやるべきことを考えるためにも、ワールドカップ開催が決まってよかった」と考えている。

ワールドカップの後に残るもの

釜石市ラグビーワールドカップ推進室の増田久士さん

釜石市ラグビーワールドカップ推進室の増田久士さん

2019年、何を実現できれば釜石でのワールドカップ開催は成功だったと言えるのだろうか。増田さんは、「席が埋まって、ファンゾーンが人でにぎわい、笑顔でお客さんが帰って『また来るね』と言ってくれること」という。さらに、地元住民に対しては「関わったこと、感じたことが着地するまでにしばらく時間がかかるでしょう。後から振り返って、前に進める原動力になるようなできごとになればいい。そのためにも、見ないふりはしないで関わってほしい」という。

一方で、新設されるスタジアムの有効活用は、「ワールドカップ後」を見据えて考えるべきことの一つだ。2002年に開催されたサッカーのワールドカップの際に造られたスタジアムの中には、大会後の稼働率の低さや高額の維持費に悩むところも多い。
その理由の一つは、ワールドカップに合わせて造られた大きなスタジアムは、通常のスポーツ大会やイベントと規模が合わないことが挙げられる。「釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)」は16,000席を設けるが、そのうち約10,000席は仮設スタンド。ワールドカップ終了後は国内のスポーツ大会やコンサートなどに使いやすい約6,000席規模のスタジアムとなる。また、継続的に人が訪れる場所となるよう、ラグビー好きが集うラグビー神社や、防災体験施設を作ることも考えている。「ラグビーのまち」「震災からの復興を遂げたまち」として釜石に人を呼ぶ拠点とする考えだ。

過去に8回開催されたラグビーのワールドカップはイングランドやニュージーランドなど、いわゆるラグビー先進国で行われており、日本は強豪国以外で初めてホスト国となる。もちろん、アジアでは初の開催だ。公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会広報部長の柳沼博之さんは「2019年の大会では、世界中から日本を訪れる数十万人のラグビーファンに日本のいい思い出をたくさん持ち帰ってもらいたい。それぞれの開催地を訪れた人が『またこの町に来よう』と思ってもらえるイベントにしたいと考えています。その中でも釜石は、都市部などの他開催地とは違ったスタジアムの雰囲気になるでしょう。また、日本の復興の様子を世界に見てもらうという意味で特別な場所になると思います」と期待を寄せる。

釜石市は、地方創生の総合戦略である「オープンシティ戦略」を2015年10月に公表した。その中で、釜石に定住していなくても暮らしや産業、まちづくりに多様な関わりを持つ人を「つながり人口」と定義し、市民とともに地域に活力を生み出すことを目指す、と謳っている。
人口3万6千人の地方都市で開催される世界的スポーツイベント。都心のように便利な交通網や、最新設備のある施設は用意できないかもしれない。だが、釜石には長年育まれてきたラグビー文化、三陸の海の幸、そして温かい人といった資産がある。釜石ならではのホスピタリティで、一過性の訪問ではなく「つながり人口」として釜石と関わり続ける人が増えることを期待したい。

文/畔柳理恵

提供元:東北復興新聞 (http://www.rise-tohoku.jp/?p=12544)


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